愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「最初に謝っておくわ」
「はい?」
「ごめんなさい。私、王太子妃としてちょっと最低なことをします」

 そう前置きをすると、サァッと青ざめるベルモント卿が目に飛び込む。
 誰よりも早く、何よりも大事な人を見付けるにはこの方法しか思いつかなかったのだ。

 ――自身を、囮にすることしか。

 
“私がグランジュへ輿入れする時に、ジークは約束してくれた”
 
『もし何かあればいつでもお呼びください。私はこれからもずっと、姫様だけの騎士ですから』と。

 ならば呼ぶまで。声の限り。


 私は肺いっぱいに酸素を吸い込み、一瞬息を止める。
 そしてお腹の底から声が出るように肩幅に足を広げ、大声で叫んだ。

「ジークッ!!」
「!?」
「ジーク、ジーク、ジークゥッ!」
「ひ、妃殿下! ……っ、お下がりください!」

 選抜大会の会場に民衆が集まっているからか、さっきまで全然人通りがなかった路地に私の声が響いたと同時にジークが被っていたのと同じローブを着た何者かに囲まれる。

 すぐに剣を抜いたベルモント卿が私を庇うように一歩出た。
 
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