愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 その結果がいいことに繋がることもあるが、反対にこうやって周りに迷惑をかけ大事な人を傷つけてしまうこともある。
 きっとリヒテンベルンではそんな浅はかなところが厭われ敬遠されていた。

「私は私がダメなことを知っていたのに」

 ダメだとわかっていながら、それでもなんとかなるだなんて思って行動した結果がこれだなんて。

「アルドがもう剣を握れなくなったら、私のせいで廃嫡されたらっ」
「セヴィーナ」
 
 怪我の後遺症が残ったら、そのまま戦場に出ることになったら?
 どの可能性もすべてが悪夢のようだった。

「それよりこの怪我のせいで死……」
「セヴィーナ!」
「んんっ」

 怖くて、どうしたらいいかわからず呼吸が荒くなり視界が滲む。
 上手く息が出来ず、止めたいのに止まらない不安が口から溢れ出していた私のその言葉を閉じ込めるように、突然アルドが唇で塞いだ。

「なっ、――んっ」

 驚き慌てて離れようとするが、一瞬離れた唇がすぐにまた深く重なる。
 ゆっくりと彼の吐く息を吸って肺に二酸化炭素を取り込んだからか、少しだけ落ち着いた。

「大丈夫か?」
「……皆の前なのに」
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