愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 今回の護衛は、私が前回浅はかなことをして名誉を失墜させてしまった第一騎士団から選ばなくてはならないからだ。

 そしてその事実も気付いているのだろう、ジークも何も言わなかった。

 元々傭兵だったとしても、私の元護衛としてリヒテンベルンの騎士と知られているジークが今からグランジュの騎士にはなれない。
 どうしてもスパイであるという疑いがかけられるからだ。

“認められず何かある度に疑われ続ける環境なんてダメだわ”

 それではなんのためにジークをリヒテンベルンへおいてきたのかわからない。
 

「……じゃ、もう行きます。最後に姫様と会えてよかった」
 
 くしゃりと笑うジークに何も言えない自分が悔しかった。
 きっとこれが最後になる。

 弱小国とはいえ国家だ。
 何の庇護なく逃げるなら、どこまでも遠く、そして下手をすれば一生逃げ続けなくてはならないだろう。

“ここ、グランジュならジークを守れる力があるのに”

 だが守る大義名分がない。
 護衛にも騎士にもなれず、針の筵のような状態で過ごすことになるなら――……


「ここにいればいい」
「はっ、だから私がここにいる理由が」
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