愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 一瞬口を開きかけたアルドが、両親のため、国のため、そして何より国民のためにと覚悟を決めた二人を見て言葉を呑み込んだ。


「ならばリヒテンベルンとの戦争が私の戦場ですね」

 ふっと苦笑を漏らしながら言ったのはベルモント卿だ。

「第一騎士団団長として、そしてグランジュの守りの要を担う騎士として、必ず時間を稼ぎ切りましょう」

 リヒテンベルンを蹂躙してはならない。
 戦争が終わるとわかればすぐにでもメイベルク王国が動きかねないからだ。
 
 そしてもちろん自国に被害を出してもいけない。
 その瞬間が、メイベルク王国にとって攻撃する最高のタイミングになる。

“勝たず、でも負けず均衡を保つ。それを狙って行うのは至難の技だわ”

 だが余裕の表情すら見せるベルモント卿に、不安や心配はない。


「最後は私の番ね」

 にこりと笑うとアルドが両手を固く握った。

“夫として心配してくれてるんだわ”

 だが彼は夫である前にこの国の王太子だから。
 そして私はそんな彼の妻だから。

「メイベルク王国に潜入し両陛下の奪還は私が担当します」
< 297 / 340 >

この作品をシェア

pagetop