愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 国境近くまで送ってくれたジークが突然馬を止めてそんなことを口にする。
 国境では、グランジュの騎士たちが出迎えに来てくれている手筈だった。

“確かに逃げるなら今が最後のチャンスだけど”
 
 ジークのその言葉だけで、私の心は救われたと思うほど嬉しかったから。

「巻き込む気はないって言ったはずよ」
「ですが!」
「それに必ず殺される訳じゃないもの。人質ってものは生きていてこそだしね」

“それでも、リヒテンベルンがまた何かをやらかしたらわからないわ”

 だが、ちょっと大国のグランジュから睨まれただけであれだけ震えていたのだ。
 だからきっと、それはすぐじゃない。


「私を精神的にも肉体的にも鍛えたのはどこの誰かしら?」
「……平民出の傭兵崩れのくせに一国の姫君の護衛騎士に抜擢された私ですかね?」
「そうよっ、師匠! 安心してよ、相手は嫁として貰うって言ってるの。つまり私の家族になるのよ!」


 自国では得れなかった家族の愛を、もしかしたら――


「もし何かあればいつでもお呼びください。私はこれからもずっと、姫様だけの騎士ですから」
「えぇ、ありがとう。……いってきます」
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