愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 いつものように軽口を叩き口喧嘩をして。

 
「愛してる」


 どちらともなく同じ言葉を口にした私たちは、互いに背中を向け歩き出す。

“次に会うのは全てを終えてからよ”

 私はそう誓ったのだった。


 ◇◇◇


「お義姉様は向かわれたのね」
「はい、そのようです」

 あの会議があった日から毎日のように出たお茶会。
 然り気無く噂の種を撒いてきた、引っ掛かるならばそろそろだろう。

「……今晩の夜会が勝負どころよ」
「はい、モニカ様」
「私のことは呼び捨てで。今日は私たちの婚約発表なんだから」

“王女の婚約発表なら、ほとんどの貴族が出席するわ”

 しかも王太子は自身の怪我を理由にリヒテンベルンへ抗議し、王城にはいない。
 両陛下もメイベルク王国へと招かれていることは皆が知っている。

「つまり今の決定権は私にあるわ」

 ――何も知らない小娘の王女に。

「さぁ、誰が釣れるかしら」


 バクバクと早鐘を打つ心臓。
 こういう時は、いつも王太子である兄が側にいてくれた。

“もし情報を誤ってしまったら”

 誤った情報は命取りだ。
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