愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私の判断で何人もの命が消えるかもしれない、そう思うだけで体が震える。

 そんな私の肩をそっと抱き寄せたのは、護衛騎士であり今は婚約者のクリスだった。

「大丈夫です、俺がいます」
「クリス……」
「それに王太子殿下の側近であるダレア殿もついていてくれます」
「そうですよ、殿下の右腕であり頭脳の私がおりますから!」
「ふふ、心強いわ」

 私の緊張を解すために明るくそう言ったダレア。
 そして抱き寄せられた肩から愛する人の体温を感じフッと息を吐く。

“大丈夫、難しいことじゃないわ”

 誰がどんなニュアンスで何を言ったのかを覚えるだけでいい。
 言葉を、ニュアンスを、裏に隠したその本音を誤らないようにするだけだ。

「それよりも心配なのは……」
「大丈夫よ、わかってるわ。行ってきます」

 少し表情を翳らせたダレアに精一杯の微笑みを向ける。

“わかってる。一番心配しなくちゃいけないのは私自身の暗殺”

 先日王太子妃の暗殺騒動があったばかりで物騒だとは思うが、だからこそ警戒しなくてはならない。
 何故なら今この場所の責任者は私になるのだから。
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