愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
“私は今頃グランジュで震えている人質だし、ジークは依頼を失敗したどころか寝返った。そしてランドルにいたってはグランジュの騎士なのよね”

 私とランドルはそこまでまだ表には出ていないためメイベルク王国では誤魔化せるがジークは有名人。
 そして私も万一リヒテンベルンの人間と会うと流石にバレるリスクが高かった。

 
「でも、私たちには進むしか道はないわ。二人ともついてきてくれるわよね?」

 失敗は許されない。
 私たちの失敗により命を失う人が何人もいるのだから。

 そのプレッシャーから思わずぶるりと体を震わせると、私の頭にジークの大きな手のひらがぽんと乗せられた。

「何度も教えたでしょう? 生きてさえいれば勝ちなんです」
「……えぇ、そうだったわ」

 ニカッと笑うその顔に潰れそうになっていた心臓が少しだけ楽になる。

 
「貴女は卑怯者でした」
「ちょ、ランドル!?」

 はぁ、とため息を吐きながら辛辣な言葉を自身の護衛騎士から投げ掛けられた私は思わずギョッとしてランドルの方を振り返る。
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