愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 てっきり嫌そうな顔をしていると思ったのだが、意外にも柔らかく微笑んでいるランドルにぽかんとしてしまった。

「砂、いっぱい隠し持って行きましょう。いつか正当な美しい戦い方で妃殿下に勝つまでは、どれだけ泥臭くても生きてください」
「ランドルも、砂を忍ばせることをお勧めするわ」
「ははっ、それが俺の主君の望みなら」

 
“絶対一人も欠けさせないわ”

 家族に褒めて貰いたくて頑張った剣。
 自分のために磨いて貰った泥臭さ。

 あの頃喉から手が出るほど欲しくて、だが同時に諦めていたものがいつの間にか私の周りに溢れていたことにやっと気付く。


 その大切な全てを守るために。


 グッと深くローブのフードを被ると、ジークとランドルも私に習い深く被る。

「奪還作戦、開始よ!」
「ハッ!」

 目指すは敵国のど真ん中。
 だがそれでももう震えはないから。
 
 私たちはメイベルク王国の国境へと歩み始めたのだった。
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