愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!

38.ここは任せて先に行けという王道理論は有効か

「そこの、止まれ」

 しれっとしていれば難なくその他のリヒテンベルン兵に紛れて入国出来ないかと思ったものの、当然のようにメイベルク王国の門番に声をかけられギクリとする。

“でもこれくらいは想定内よ……!”

「通行証を出せ」
「……通行証は……」

 怪訝な顔をする門番にごくりと唾を呑んだ私は、ランドルが手渡してくれた砂をすかさず顔面に刷り込んで思い切り門番の足元へとすがりついた。

「あるわけないじゃないですかぁぁッ!」
「うわっ!?」
「助けてくださいよぉ! おたくもご存知でしょ、今リヒテンベルンとグランジュが戦ってるんですが勝てるわけないって!」
「と、突然何を」
「こんなとこで死にたくないよぉっ! 応援出してくれるって言ったじゃんかよぉっ! 直談判しないとやってらんないよぉっ!」
「や、やめ、離せこの……うぎゃっ!」

 唐突に鳴り響くゴインという鈍い音。
 その音と合わせて小さな呻き声が聞こえたと思ったら、私の目の前に二人の門番が倒れ込んだ。

「……荒いわね」
「姫様に言われたくねぇですけどね」
「あまりにも見苦しくて」
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