愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 だが流石にここで他のリヒテンベルン兵が滞在している場所へと連れられると、私たちの存在に気付く人もいるだろう。
 
 ランドルはまずい、彼はそもそもグランジュの人間だ。だがジークはリヒテンベルンからすれば現在反逆者も同然。
 その二人と比べれば……


 ふっと息を吐いた私は、私を隠してくれていた二人の間を抜けて前に出る。
 そのまま自身のフードに手を伸ばすが、そんな私の手を止めるように押さえたのはランドルだった。

「なっ」

 驚く私の前に再び立ち、声をかけてきたリヒテンベルン兵へと一歩二歩と近付く。

 一瞬だけ振り返ったランドルの口元が、「あとは頼んだ」とそう動いて――


「いや、俺の持ち場はここなんだ」

 パサッとフードを脱いで顔を晒した。
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