愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「えぇ、大したことはないわ」

 じわりと口の中に血の味が広がり、私はこっそりと眉をひそめた。

「何故ここにいる、セヴィーナ」

 ランドルの手を借りて起き上がった私を思い切り睨む父の目。
 
 昔はこの目が怖かった。
 だが同じくらい好きだった。
 唯一私を『見て』くれている瞬間だったから。

“まやかしだったわ”

 今ならわかる。
 この目は『私』を見ているのではなく『道具』を、それも『価値のない道具』を見ているのだと。

「きっとそれに気付けたのは皆のお陰ね」
「何をごちゃごちゃ言っている? さっさと私の質問に……」
「いいえ、今から質問するのは私です」

 そんな父の目を逆にギロリと睨み返す。

「ここで何をされているのですか」
「そんなのお前には関係な――」
「まさか、援軍要請ではありませんよね?」

 現在グランジュとリヒテンベルンは抗議という名の小競り合い真っ最中だ。
 だが弱小国のリヒテンベルンでは兵力が足りていない。

 そこを見透かされたと思ったのか、父が一瞬口ごもる。

「愚かであり無意味です」
「な! お前に何がッ」
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