愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私の煽るような言い回しに苛立った父が再び手を振り上げるが、私は怯むことなく父を睨み続けた。

「もし援軍を出す気があるなら、最初から出しているのでは?」
「ッ」
「後で送る、と言われつつも一向に来ない援軍を催促しに来られたんですよね」

 確証があった訳ではない。
 だが、父がこの場にいる理由が他に思い付かなかったからハッタリをかけただけ。

 だがどうやら正解だったようで、私を叩こうと振り上げられた手が止まる。

「賢明です」
「何を生意気な……」
「そうでしょう? 私が傷物になったら、グランジュから追い返されるかもしれませんよ」
「なっ」

 死んで戻るのではなく生きて追い返される。
 それはつまりリヒテンベルン側に責があるのだ、だからこそ『別の娘を寄越せ』と言われても文句が言えないということだった。

“いや、人質交換ならまだいい。怒ったグランジュに侵略されたら全員の命がないんだもの”

 その可能性を突きつけられた父の目が明らかに泳ぐ。
 そんな姿に呆れ、落胆した。

“私だって、実の娘のはずなのにね”

 生まれた順番が違っただけ。
 求められていたことが出来なかっただけ。
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