愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私の煽りには何も言い返さなかったが、それでも苛立ちはさせられたのか彼の表情が固くなる。

“あと一押しね”

 そう思った私は畳み掛けるように口を開いた。

「私が負けても当然不敬罪になんて問わないわ。それどころか見どころがあると旦那様にも伝えましょう」
「で、殿下に……!」

 実際アルド殿下と次に会う日は決まっていないどころか会えるかすらわからないが、それでも彼の心を揺らすことには成功したらしい。

 私たちの様子を見てため息を吐いたベルモント卿は、渋々訓練用の木剣をふたつ持ってきてくれた。

「……介入はいらないから」

 苦々しい顔をしたベルモント卿から木剣を受け取る時にそう囁くと、一瞬何か言いたそうな顔をし――私の表情を見てそのまま頷く。

 そんな彼に内心感謝しつつ、それぞれ剣を持った私たちが向かい合って立った。


「“どんな方法でも”相手に一撃与えたら勝ち、よ。いいわね?」
「流石に現役騎士の俺から攻撃を仕掛けるのは不公平でしょう。先に向かってきてくださっていいですよ」
「あら、ありがとう。じゃあ、早速」
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