愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 たったそれだけなのに子供の私はそれが世界の全てだと、そう思っていた。
 

“――もう、本当にいらないわ”
 貴方たちが私をいらなかったように、私にも貴方たちなんていらない。

 私から捨てれば良かった。そんな簡単なことに気付くのに二十年もかかったしまったが、気付いたその瞬間から心が軽くなったような気がした。


「グランジュに攻め入る兵を借りに来て、それと同時にグランジュから侵略されるのを怖がるだなんて滑稽よ」
「こ、言葉が過ぎるぞセヴィーナ!」
「わからなくはないわ。グランジュが牙を剥けばリヒテンベルンなんて一瞬で飲まれる。今友好国として対等でいれるのはグランジュがリヒテンベルンに興味を持っていないだけだもの」

 それにグランジュには豊富な鉄がある。
 素材が自国で賄えるなら武器や防具もより低コストで大量に生成することだって可能なのだ。

 万が一リヒテンベルンがグランジュを落とせばその資源はリヒテンベルンのものだし、それを足掛かりにもっと領土を広げることも可能。
 夢だって見てしまうのだろう。

「わかっているなら……」
「その夢を見るのが、リヒテンベルンだけだと思ったの?」
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