愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「何を」
「一国の主がほぼ単身で来なくてはならないくらいの国力しかないからその事実に気付かないんだわ」

 ハッと鼻で笑う。

「つまり、私たちはただの囮だと? それを手放しに信じろと言うのか!」
「えぇ。忘れているようだから改めて名乗るけど、私はグランジュの王太子の妻。しかも愛され妻なのよ、お姉様たちとは違ってね」

 そこを疑うのはアルドを疑うことだから。
 私がハッキリとそう断言すると、後ろから小さくジークの吹き出した声が聞こえたが無視をした。

“嘘じゃないわ。きっとお姉様たちがアルドに嫁いでも人質という役目しか与えられなかったはずだもの”

「元リヒテンベルンの姫である私がいる大国の“我が国”と、甘い言葉で転がすだけのメイベルク王国。どちらに脅されたい?」

 不敵に微笑む私に、父が苦虫を嚙み潰したような顔を向ける。


「……グランジュだ」

 それはある意味当然の答えだった。
 
 何故なら『人質』だったはずの娘が幸せでいる限り友好国という建前は継続され、逆にこんな弱小国へ見返り無く手を差し伸べ続ける大国はない。
 国というものは利益無くして感情では動かないものだから。

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