愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 突然告げられた『むすめ』というその言葉に呆然としている私に気付いたのか、お義母様がにこりと微笑みを向けてくれた。

「貴女の腰に差している剣はアルドのものね」
「!」
「だ、騙されるな、今リヒテンベルンとグランジュは交戦中だ、そのどさくさに紛れて盗んだものだろう! その証拠に彼女が連れているのはグランジュの騎士ではなくリヒテンベルンの……」
「騙すためにわざわざ息子が大事に仕舞っている昔の剣を盗んだのに連れている騎士の制服はリヒテンベルンのまま、なんて真似は普通しない」
「うぐ……」

 バッサリとそう言ったお義父様が右手を上げると、どこから現れたのか何人ものグランジュの騎士が剣を抜き私たちを背に庇うよう前に出る。

「今回の件、後日改めて話し合おうではないか」
「…………」

 そう宣言し、当然のように私の側まで来てくれた。

「お、お義父様、お義母様……?」
「さぁ、帰ろう。アルドも待っている」
「迎えにきてくれたのね、ありがとう」

“父、母と呼んでも怒られないなんて”

 それどころか温かい笑顔を向けられ、視界がじわりと滲む。
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