愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 私はにこりと微笑み、重心を低く構えそのまま相手へと一気に距離を詰める。
 相手はそんな私を気にした様子もなく、余裕そうな表情のまま片手で木剣を持った。

 距離が縮まる。ニメートル、一メートル。
 あと一歩踏み込めば剣先が届く、その距離で私は横飛びし地面を転がった。

「なっ」

“私の師匠であるジークのモットーは”

 突然のその奇行に唖然とした顔を一瞬するが、現役騎士にとっては格下相手の行動なんて簡単にいなせるのだろう、すぐに落ち着いた表情を私へと向けてくる。

“どんなことをしても生き延びた方が勝ちスタイルなのよ!”

「うりゃっ!」
「ッ!?」
 
 そして私はそんな余裕そうな彼の顔面へ向けて、転がった時に掴んだ砂を思い切り投げつけた。

 突然奪われた視界に後退った騎士へとすかさす一撃を入れ、ついでとばかりに足払いもかける。

「ベルモント卿」

 そのままバランスを崩し無様にも尻もちをついた騎士を見下ろしながらベルモント卿の名前を呼ぶと、一拍遅れてハッとしたベルモント卿が私の勝利を宣言した。


「ひ、卑怯だ!」
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