愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!

8.これから守る、その景色

“体を使うことは得意なのよね!”

 木の幹に手を掛けどんどん登る。
 幹自体は太くしっかりとした木のお陰で折れそうにはないが、枝先となれば話は別だ。

「少しずつ幹の方へ戻れたりする?」
「む、無理だよぉっ!」

 男の子が掴まっている枝の高さまで登りそう声をかけるが、悲壮な声で首を振るばかりだった。

“仕方ないわね”

 私はその子の掴まっている枝より上にある別の枝に手を伸ばし、折れないかを確認しながら少しずつ進む。

 先に進めば進むほど枝は細くなるので、なるべく幹の近く、幹からの距離で言えば丁度その男の子の足首があるところまで進みスカートの裾が捲れないよう枝と足の隙間に挟んだ。

「今から足を掴むから!」

 一言そう声をかけ枝に足を引っ掻けて膝でだらんとぶら下がると、木の下が一気にざわつく。だがそんなことを気にしている場合ではない。
 私はそのまま手を伸ばし男の子の足首へと手を伸ばした。

“あともう少し……!”

 指先まで力を入れてギリギリまで手を伸ばす。
 だがあと少しが届かない。

「もう少し、もう少しなのに……っ」

 これ以上枝先へは進めない。
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