愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 ちなみに枝と膝の隙間に挟んだスカートの裾は、枝に引っかかりビリッと嫌な音を響かせたがそのお陰で捲れずに済んでいるので結果オーライということにした。

 
 ひっくり返ったままちらりと枝へ視線を向ける。

「誰かがこの子を抱き止めてくれたらいいんだけど」
 
 二人分の体重を支えているが、幹に近い部分に掴まっていたのでまだ折れそうにはない。
 そのことにホッとするが、このまま永遠にぶら下がっている訳にはいかず、流石の私も足先で引っかかっている状態から男の子を抱えて枝まで戻ることは出来ずに途方に暮れた時だった。


「その役目は俺がしよう。いいと言うまでまだ離すなよ」


 そう声を掛けられた私は思わず表情を明るくし、声の主へと顔を向けて愕然とする。
 なんと声の主は現在視察中の私の夫、アルド殿下本人だったのだ。

「あ、アルド殿下が何故木に登って……!?」
「全く同じ質問を俺からも返そうか」
「ひぇ」

 全く目が笑っていない笑顔を向けられ血の気が引く。

“木の下が異様にざわめいていたのは殿下が来たからだったの!?”
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