愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 今更その事実に気付いた私が呆然としている間に、テキパキと私から男の子を受け取ったアルド殿下がそのまま地上に下ろし、すぐにまた木を登る。
 彼自身も戦闘では前線に立つという噂通り、ちゃんと鍛え、また運動神経もいいのだろう。

“や、やばいやばいやばい!”

 慌てた私はぶら下がった体を揺らし反動をつけるべく体を大きく揺らした。
 私一人ならそれくらいは余裕だから。

「なっ、危ないだろ!」

 焦ったような声が聞こえるが、それ以上に焦っている私はその反動を利用して枝に掴まり、更に上を見上げる。
 

「まさかまだ登る気じゃないだろうな!?」
「の、登る気ですけど!」
「何故!」

“何故ですって!?”

 そんなの怖い顔したアルド殿下が登ってくるからですよ! なんていう本音はもちろん言えない私の目に飛び込んできたのは、その木に成った丸い実だった。

“あの男の子もこの果実が欲しかったのかしら”

 その答えはわからないけれど丁度いい。
 果物を探していたのも本当なので、言い訳へと利用させて貰うべく私はその果実を指差した。

「えぇっと、あ、そうです、この実が欲しくて!」
「はぁ?」
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