愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 ――何よ。誰でもいいと約束してくれたから指名したのに、昨日も結局来なかったくせに。

 それなのに、私を心配して殿下自らが木に登ってくるなんて。

「他の人を選んで欲しいなら優しくしないでよ……」
「何か言ったか?」
「何も言ってないわ」

 じわりと温かい気持ちが自分の中に溢れたことに気付かないフリをして、差し伸べられた手に自身の手を重ねると、すぐにぎゅっと強く握られた。

「絶対離さないから、心配せずゆっくりこっちまで来い」

 幹に掴まっている殿下の指示に頷き、枝の上に立ち上がる。

“本当は一人でも降りれるんだけど”

 だがなんとなくこの手を離したくないと思ってしまった私は、そのまま彼の手を支えにして幹まで戻った。

 幹まで戻ると、はぁ、と安堵のため息を溢した殿下が私の腰をしっかりと抱えながら体を幹に掴まらせる。
 抱き寄せられるような格好になり、私の鼓動が少し早くなった。

“まぁ、私が抱き着いているのはアルド殿下じゃなく木の幹なんだけど”

 木の幹に掴まりながらそっと遠くへと視線を動かす。
 視界いっぱいに広がるのは美しい街並み。

「本当に素敵な景色だわ」
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