愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 確かにただの侍女が突然王太子殿下の馬車で一緒に乗るとなったらこうなってもおかしくなく、そんな彼女に少し苦笑しつつ私が繋いでいたラオの元へ向かうと、何故かそこにはアルド殿下が待っていた。

「え、どうして……」
「病み上がりに俺と一緒の車内だとプレッシャーだろう。どうせ仕事が出来ないんなら俺も体を動かそうかと思ってな」

 ラオを優しく撫でながらそんなことを言ったアルド殿下は、その美しい黒馬に向ける眼差しを急に吊り上げて私の方へと振り返る。

「というか! なんでこいつがここにいるんだ!」
「えっ、どの子でもいいって言われて」
「よりにもよってなんでこいつを選んだんだ!?」

“えぇっ!? なんで急に怒り出すのよ”

 訳がわからず混乱している私に大きなため息を吐いたアルド殿下。
 至近距離で声を荒げられても全く動揺していないラオを見て、もしかしてアルド殿下の馬だったのかと焦るが、王太子の馬をお使いに行くだけの人間に貸し出すとは思えず首を傾げた。

 そんな私と答え合わせをするように、腕を組んで私の方へと完全に向き直ったアルド殿下が再び口を開く。
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