愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「黒い毛の馬は軍馬だ。知らなかったのか?」
「へ?」
「特別な訓練をした特別な馬なんだよ」
「な、なにも言われなかったのに!」

 思わずそう抗議するが、確かにラオを選んだ時に『触れているなら』と言われたことを思い出す。

“どうりで体躯もいいはずよ”

 鎧を着けた騎士を乗せて戦場を駆け回るのだ。
 女性二人を乗せてあのスピードで走り続けられたことも、あの衛兵がまじまじとラオのことを見ていたことにも今更ながらに納得した。

 そして乗馬初心者のミィナにどれほど過酷な初体験をさせてしまったのかということにも改めて気付かされる。

「そりゃ気絶もするか……」

 そこまでスピードを出していたつもりはなかったが、軍馬が走っていたのなら通常よりもかなりスピードが出ていたのだろう。
 私自身はジークのもとであらゆる訓練を受け体も鍛えていたが、一介の侍女にとっては心身ともにただの恐怖体験だったはずだ。
 
 王城へ戻ったら改めてミィナに謝ろう。そう心の中で誓いながらラオの方へ近付くと、今度はアルド殿下がきょとんと私を見た。

「何してるんだ?」
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