愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「え? 帰ろうと……ハッ、まさかこのまま私には消え失せろって言ってるの!?」
「は、はぁ!? ひと言も言ってねぇだろ!?」
「じゃあ何なのよ!」
「馬車はあっちだって言ってるんだ!」
「馬車あっちでもラオが……って、え? 私も馬車に乗っていいの?」

 思わずそんなことを口走り、しまったと顔を歪める。
 輿入れの時ですら馬車を出して貰えずジークと二人で国境に向かったせいで、自分は当然こっちだと思っていたのだが、普通の王女なら、いや、どの令嬢も普通ならばそんな発想にはならないはずだ。

 しかも専属ではないとはいえ私が連れて来た侍女が馬車に乗るのだ。
 当然主たる私も馬車へ向かうのが正解だった。

“これじゃあ私が祖国で『そういう扱い』をされていなかったってバレバレじゃない”

 輿入れの様子や持参金がないこと、持ち物が鞄ひとつしかないことは全て『人質として渡すんだからそれくらいはそっちで負担しろ』という抗議として受け取ってもらえるかもしれないが、一国の姫だった私が馬車に乗りなれていないのは明らかにおかしいだろう。

 もしここで、祖国で冷遇されていたことに気付かれてしまったら。
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