愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 そうすればたちまち私に人質としての価値すらないことがバレてしまう。

 いくら警告の意味での人質要員だったとしても、不要な人材を押し付けられただけなのだと知られてしまったら――
 
“即処刑、即開戦の可能性だって……!”

 そんな可能性にゾッとし、思わず体が強張った時だった。


「足の怪我は、本当に問題ないんだな?」
「……え?」
「まぁ、仲の良さをアピールするのも悪くないだろう」

 そう言ったアルド殿下はひらりとラオに乗り、そして私へと手を差し伸べる。

「一緒に乗って、いいんですか」
「嫌なら馬車に乗ってもいいぞ」
「の、乗る!」

 不機嫌そうに眉をひそめたアルド殿下を見て慌てて彼の手を握ると、そのまま一気に引き上げられる。
 そのまま私の体をしっかり支えつつゆっくりラオを歩かせ始めた。

「なにも、聞かないんですか」
「怪我の具合は聞いたが?」

 さらっとそんな返事をされぐっと言葉を呑む。
 
“優しい”

 何かに気付いたはずなのに、問い詰めないでいてくれることも。
 私とは仮初めなのだと、何も築くつもりはないのだと言っていたのにこうやって二人乗りしてくれることも。
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