愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
“離縁するつもりの相手との仲を誰にアピールするつもりなのよ”

 きっと全部、私を気遣ってのことだった。

 思えば私が木から落ちそうになっていると思った時だって自らが助けに来てくれたし、あの時初めて名前だって呼んでくれた。


 どれもこれも、彼にとっては不要なことばかりなのに、わざわざそうしてくれたのだ。

“少しずつ、近付いてるってことなのかしら”

 不機嫌そうな顔をしても、眉をしかめても声はどこか柔らかく初めて会った時のような刺々しさもない。
 私の希望を聞いて、私を見ようとしてくれている。

 そう思うと、私の胸の奥が熱く震えた。

 
「すぐにメロメロにしてやるんだから!」
「は? なんだよ急に」
「後悔しても遅いわよ」
「知らん。バカなことを言ってないで帰るぞ」

 呆れたような声が後ろから降ってくる。
 けれど、どんなに呆れた声をだしても私が馬から落ちないようにと支えてくれる手は離れない。

“へんなの”

 触れられているところがやたらと熱くて、私はそんなことを考えながら今の私の家へと帰ったのだった。
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