愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 慌ててベッドから降りて彼の背中をさすると、咳き込んだせいで少し涙目になったアルド殿下が私を見上げた。


「お前こそ大丈夫か?」

 言われた意味がわからずぽかんとする。
 苦しそうなのはどう見てもアルド殿下だし、大丈夫かと声をかけたのも私からだったはず。

“ま、まさか頭がって意味じゃないわよね?”

 全く言葉の意味を理解していない私に気付いたのか、咳き込んだのが少し気恥ずかしかったのか、仕切り直すかのごとくコホンと咳払いしたアルド殿下は私の目をじっと見ながら口を開いた。


「だってお前、泣いてただろう」

 唖然とした。
 泣いていた? 私が?

「涙目になっていたのは」
「そっちだ」

 私の言葉を遮るように断言され、思わず口ごもる。

「俺のベッドで、目元に涙を滲ませていた」
「……!」

“寝落ちする寸前、幼い頃のことを思い出していたから!?”

 あの頃のことはもう私の中では過去のことで、それに途中からは私を心配してくれる護衛騎士のジークだっていてくれた。
 だからもうとっくに当時の哀しみやさみしさなんて乗り越えられたのだと思っていたのに。

 
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