愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「見間違えじゃ、ないかしら」


 そう言い繕ってみるが、じわりと額に汗が滲み羞恥心に襲われる。

“夜這いにきたのに、とんだ失態だわ”

 私に出せるのかは別だが、大人っぽく色香で誘うはずが子供っぽく一人寝ながら泣く姿を晒してしまうとは。

 彼の視線から逃げたくて顔を逸らすと、はぁ、とため息が吐かれビクリと肩が跳ねた。


「別に泣いてもいいだろ」
「え……」
「単身人質として来ることになったんだ。むしろもっと泣いてもいいくらいだ」

 さらりとそう言い切られてドキリとする。

“もっと、泣いてもいいの? 泣くことが許されているの?”

 彼のその言葉に目の奥が熱くなり、視界が一瞬滲むが私はぎゅっと両目を瞑って耐え、無理やりにこりと笑顔を作る。

「泣かないわ。だって私は人質になりに来たんじゃなくて、貴方の妻になりに来たんだもの」

 それは泣くようなことでは決してないから。
 それにそう言ってくれる彼が私の夫であるというのは、私にとってとても幸福な事なのだとそう思ったから。

「私は貴方に嫁げて嬉しいわ!」
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