愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 あまりの達成感にパアッと視界が開けた気分になり、明るくそう宣言すると、何故か対照に半眼になったアルド殿下がかなり不服そうな表情を向ける。

「二人きりの部屋で男女が重なったら、それがムードってやつでしょ」
「なんなんだよ、その効率的なようで何一つムードの欠片もない表現は!」
「何よ、別に間違っては……」

“いえ、間違ってるわ!?”

 口付けさえすれば、後は興奮した男性側がそのまま次のステップに進むというのが読んだ小説の展開だったが、そういえば本の挿し絵で見たのはそれだけではなかったと思い出す。

 重なっていたのは顔だけじゃない。
 体だって重なっていた。

「つまりは、こうね!?」
「は!? ちょ、おいっ」

 夜着の裾を持ち上げた私は椅子に座っていたアルド殿下の膝に跨がり、向かい合う形で腰を下ろす。

「これで私たちは重なったわ!」
「重なってない。いや、重なった形ではあるがそういう意味では重なってない」
「そういう意味って、どういう意味よ」
「え」

 ため息を吐きながらそう言われた私が首を傾げて訊ねると、アルド殿下の頬がじわりと赤くなった。

“な、なによその顔は……!”
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