愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「俺の妻はお前だけで、お前の夫も俺だけなんだろ」

 さらりとそう返され瞳の奥が熱くなる。
 祖国でも認められたことのなかった私を、彼は家族として迎えようとしてくれているのだと気付いたから。

「……だったらこれからはあの時みたいに名前を呼んでください」
「ならセヴィーナも、アルドで構わない」

 バレないようこっそり鼻を啜ったつもりだったのに、目敏い彼はあっさりと気付き小さくプッと吹き出した。


「俺の妻は泣き虫なんだな」
「そんなこと、言われたことないわよ」

 精一杯の抗議のつもりで彼を睨むが、クスクスと笑った彼がそっと手を伸ばし私の手を握ったのだった。


 ◇◇◇


「おめでとうございます、って言った方がいいですか? 殿下」
「うるさいぞ、ダレア」

 ニヤニヤとしている側近をじろりと睨むが、俺の視線なんて何一つ気にせず効果はないようだった。

「一応言っておくが、何もしていない」
「は?」
「だから、一緒に眠っただけで行為には及んでいないと言っている!」

 少し苛立ちながらそうネタバラシすると、眉をひそめたダレアは大きくため息を吐いた。
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