愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「まぁ殿下は童貞ヘタレですからね。私はそれでも納得しますが」
「誰がだよ!? 仕事が忙しくて機会がなかっただけだ!」
「でも、私は納得しても周りは納得しませんよ」

 そう断言され思わず黙る。
 例えそういう行為がなかったとしても、女性が男の寝室から朝出てきたならば、そういった行為があったと見られてもなんらおかしくはない。

「……わかってるよ」

 だから本当は、彼女が俺の寝室にいることに気付いてすぐに追い出そうと思ったのだ。

“でも、出来なかった”

 騎士を鼓舞するなんて言いながら訓練に混じり、騎士を倒してみせた。
 もちろんそれは真正面からの決闘で正々堂々という訳ではなかったが、彼女の使った戦法は実戦では有効。

 また、視察だと言って軍馬に乗ってこっそりついてきて、生搾りジュースだと言って果物を握力で握り潰す。

 それらの行動は決して常識的という訳ではないが、一生懸命で常に全力な彼女に嫌悪感は抱かなかった。

「人質になりに来たんじゃないんだってさ」
「まぁ、表向きにはそうですが」

 誰が見てもわかる、人質要員。
 それでも彼女は『俺の妻』になりに来たのだとそう言った。
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