愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
「最初は円満な離縁を目指すつもりだったんだがな」

 握った彼女の手のひらを思い出し、手をぎゅっと握る動作をする。

「なるほど。最後まではシてなくても揉みはしたってことですね?」
「んな訳ないだろ!?」

 真剣な表情で頷く側近に呆れながらがくりと項垂れる。
 優秀な側近のはずなんだがな。


 ――固くなった手。
 あれは日常的に剣を握っていた手だった。

 酷くアンバランスな彼女を思い出し、そして涙の意味を考える。

 もし彼女が祖国で酷い目にあってきたのだとしたら。

「まぁ、幸せにしてやりたいとは思ったよ」

 彼女が笑顔で眠れるくらいには。
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