愛されていない人質妻ですが、敵国王子の溺愛を所望中!
 的確に希望を理解し『初心者のための閨教育』という本を用意してくれたので、最初に私へ手渡したのが『寝首を掻く人体構造』という本だったことは水に流した。


 相変わらず自発的に何かをしなければやることのない人質妻である私は、普段なら一日中行っている騎士たちとの訓練も今日ばかりは午前中だけにし、午後からは本をお供に夜に備える。
 
 ――そう、全ては初夜のために。

「安心して。昨日のような失態は犯さないわ、今日泣くのは貴方の方よ……!」


 ◇◇◇


「……という流れで、セヴィーナは今本を片手に俺のベッドの上で座っているのか」
「思ったより本が分厚くて覚えきれなかったのよね」
「良かった、鈍器じゃなかったか」
「何か言った?」
「いや、こっちの話だ」

 何かを誤魔化すようにゴホンと咳払いしたアルドは、サッと私から本を取り上げた。

「なんで!」
「なんでじゃない。そもそも昨日の今日ですることでもないだろう」
「そもそももっと前に済んでるはずだったのよ!」

 今日という日まで初夜をすっぽかし続けていたことを指摘されて気まずそうに顔を逸らされるが、そんなことで逃がすつもりはない。
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