キミのこと、好きでいてもいいですか?

事故当時のことは、未だに思い出せないのに。

こういう思い出さなくても良いようなことは、思い出すなんて……上手くいかないなあ。


「ごっ、ごめんね。余計なことを言ってしまって」

「ううん。俺は別に、美桜ちゃんが名前負けしてるだなんて思わないよ? だってキミ、普通に可愛いし」


えっ、かわ……!?


「“美桜”って、良い名前だよね。俺は好きだなぁ。ご両親のその名前に込めた想いも、素敵じゃない?」


結局私は、千葉くんに自分の名前の由来というものを一通り話した。


だけど、まさか名前を褒めてもらえるなんて思いもしていなかったから。純粋に嬉しい。


「しっかし、小学生ってほんとガキだよな。そんな子どもの頃に言われたことなんて、いつまでも気にしなくて良いと思うよ? あの年頃の子って何も気にせずに、思ったことはズバズバ言うじゃん?」


千葉くんが苦笑する。


「名前はさ、親から自分への最初のプレゼントなんだから。大切にしたほうが良いよ」


あ……。千葉くんに言われて、両親の優しい顔がふと頭の中に浮かんだ。


確かに……そうだよね、うん。千葉くんの言うとおりだ。


千葉くんの言葉のお陰で、ずっと心に背負っていた重たい荷物が、不思議なくらいにすっと軽くなった気がした。


「それじゃあ、俺は部活に戻るから」

「あっ、ちょっと待って千葉くん!」


私は、走り出そうとした千葉くんを呼び止めた。
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