キミのこと、好きでいてもいいですか?
それから、病室に白衣をまとった男性の医師がやってきて私のことを診てくれた。
幸い、体は至って健康だという。
「橘さん。あなた、自分の名前は言えますか? 年齢は?」
「……分かりません」
「それでは、事故当時のことは?」
「……っ」
医師の問いかけに、私は首を横にふる。
……何も思い出せない。
私は、だれ?
そもそも、事故ってなに?
「橘さんは交通事故に遭って、約3ヶ月もの間眠り続けていました」
「3ヶ月!?」
随分と長い間、夢を見ていたような気がしていたけど。まさか、3ヶ月もずっと目を覚まさなかったなんて。
その後の検査で私は、事故のときに頭を打った影響で、記憶喪失になっていることが判明。
医師によると、この記憶喪失は一時的なものかもしれないし。
場合によっては、ずっと記憶を取り戻せないこともあるのだという。
「日常生活に支障はないので、失った記憶を無理に思い出そうとする必要はありません」
「そうよ。記憶がなくても、お母さんは美桜がこうしてちゃんと目を覚ましてくれただけで十分よ」
呆然とする私に、医師とショートヘアの女性が優しく微笑んでくれた。