【辛口ヒューマンドラマ】私のしあわせな結婚−32
第13話
時は、午後2時過ぎであった。

またところ変わって、イオンタウン内にある大垣共立銀行の支店にて…

新《あらた》がデスクワークに取り組んでいた時であった。

新《あらた》のもとに上司の男性がやって来た。

上司の男性は、ものすごくもうしわけない声で新《あらた》に言うた。

「京田くん。」
「なんでしょうか?」
「そのままでいいから話を聞いてくれるかな?」
「あっ、はい。」
「この前、京田くんにあと1年だけここにいてと言うたけど…急に都合が悪くなったので予定変更になったのよ…」
「なんで急に都合が悪くなったのですか?」
「大垣《ほんてん》に勤務している若い衆をここに移すことが決まったのだよ…今江くんは、付近の公園で発生した殺人事件で特別手配容疑者になった上に、過去に暴力団関係者の男ともめ事を起したなど…深刻なトラブルを抱えていたのだよ…」
「それで、今江をクビにしたのですね。」
「ああ。」
「それで…私はどうなるのですか?」
「今から、京田くんにお知らせを伝えるから聞いてくれるかな?」
「ちょっとその前に…こちらからお話がございます。」
「それだったらまず、ワシが伝えるお知らせを聞いてからにしてくれ〜」
「それはなんですか?」
「だから、今からワシが言うから聞け!!…あのな、お知らせと言うのは…」
「またよその会社ヘ出向しろと言うことでしょ…」
「ちがうのだよ…大垣《ほんてん》からうれしいお知らせだよ!!」

新《あらた》は、ものすごくしかめた表情で言うた。

「うれしいお知らせなんてあるわけないよ…」

上司の男性は、ものすごく怒った声で新《あらた》に言うた。

「京田くんは、どうして素直によろこぶことができないのだ!?」
「素直によろこぶことができないって…」
「京田くんは、大垣《ほんてん》に移ることがそんなに不満か!?」

新《あらた》は『不満はありませんが…』と言うたあと、上司の男性に対して『残念なお知らせがあります…』と言うた。

「課長…私は…ミテジマ商事をやめたと同時に、ここもやめることにしました。」
「やめる…なんでもったいないことをするのだ!?」
「もったいないって、どう言うことですか?」
「ミテジマ商事をやめたあとはここ(大垣共立銀行)に籍が移るだけだよ!!」
「ですが、私は銀行のお仕事にあきました。」
「銀行のお仕事にあきたとはどう言うことだ!?」
「単にあきただけですよ~」
「ったく、京田くんはどこのどこまで甘えているのだ!?」
「課長は、私にどうしてほしいのですか!?」
「わしは、京田くんにここ(大垣共立銀行)にいてほしいと思って大垣《ほんてん》の人事《たんとうしゃ》に頼んだのだよ!!」
「頼んだって、何をですか?」
「だから、大垣《ほんてん》の正社員で働けるようにお願いしますと頼みに行ったのだよ!!」
「私は、そんなことは一切頼んでいません!!」
「わしは、京田くんにここ(大垣共立銀行)でずっと働くことができるようにと思って大垣《ほんてん》に頼みに行ったのだよ!!京田くんが1日も休まずに小さなことからコツコツと積み上げてがんばって来た…大垣《ほんてん》のひとはコツコツと努力した人にきてくださいと言うてるのだよ!!」
「私は小さなことからコツコツと積み上げてがんばりました!!ですが、正社員で登用されたいと言うことは考えていませんでした!!」
「それじゃあ、どうするつもりだ!?」
「それをこれから話そうとしたのですよ!!」

上司の男性は、ものすごくつらい表情で言うた。

「ああ、なさけない…なんで京田くんはわしの思いを打ち砕いた…」
「課長の思いとは、なんでしょうか?」
「京田くんがここ(大垣共立銀行)にずっといてほしいだけだよ…京田くんは、正社員になりたいから今までがんばって来たのだろ…大垣《ほんてん》の正社員になったら、お給料が倍に増えるのだよ!!終身雇用で安定したロウゴが待ってるのだぞ!!」
「もうその話はあきましたよ…もういいですよ…こんなことになるのだったら、ここへ来るのじゃなかった…」

新《あらた》は、はき捨てる言葉を言うたあとロッカーとデスクの整理を始めた。

上司の男性は、新《あらた》に対して怒った声で『恩知らず!!』と言うたあと外へ出た。

時は、夜8時頃であった。

またところ変わって、名古屋大須にある新《あらた》の実家にて…

広間に置かれているテーブルに亜弥子《あやこ》と晃代《てるよ》がいた。

いさおは、早めに床についたのでここにいなかった。

新《あらた》は、黒の手提げと小物類がぎっしりと詰まっている大きめの紙袋を持って広間に入った。

新《あらた》は、つかれた表情で亜弥子《あやこ》と晃代《てるよ》に言うた。

「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「はあ…」

つかれた表情を浮かべている新《あらた》は、イスに座ったあと大きくため息をついた。

亜弥子《あやこ》は、新《あらた》に対してつらい表情で言うた。

「新《あらた》。」
「かあさん。」
「おかあさんからお知らせがあるから聞いてちょうだい。」
「お知らせ…」
「今朝早く…立浪課長がとつぜん倒れたわよ。」
「立浪課長がとつぜん倒れた?」
「うん…それで…きょうの夕方頃に亡くなったわよ。」
「亡くなられた?」
「うん…前々からわずらっていた脳こうそくが再発したのよ…」
「そうだったのだ。」

晃代《てるよ》は、テーブルの真ん中に置かれている入れ物に盛られているみかんを一個手にしたあと、皮をむきながら新《あらた》に言うた。

「新《あらた》。」
「ねえさん。」
「もうひとつ、お知らせがあるわよ。」
「もうひとつ…お知らせがある?」
「おじいちゃんが…近いうちにトクロー(特別養護老人ホーム)に入所することが決まったわよ。」
「トクローに入所するって?」
「犬山にあるトクローよ。」
「犬山。」
「入所の手続きは、犬山で暮らしている伯父《おじ》さんがしたわよ。」
「そう。」
「同時に、この家もバイキャクすることにしたわ。」
「家を売る?」
「そうよ…しばらくの間は、犬山の伯父《おじ》さま方ヘ転がり込む形になるわよ…伯父《おじ》さまたちも『おいで』と言うてくださっているから…」
「分かったよ。」
「新《あらた》はどうするのよ?」
「えっ?」
「キョーリツ(銀行)をやめるのでしょ。」
「ああ…ミテジマ商事に籍を置いたままキョーリツで働くことは苦痛だよ…」
「それじゃあ、伯父《おじ》さんに再就職のお世話を頼むしかないわね。」
「ああ。」
「それじゃあ、サイコンはするの?しないの?」
「しない…」
「そうよね…しない方がいいわよ。」

亜弥子《あやこ》は、困った声で言うた。

「今の世の中は、どんなにいい大学を卒業したからと言うていい会社に就職できるわけはない…どんなにいい学歴で高収入であっても身の丈に合う相手《おあいて》と結婚できるわけはない…のよ…新《あらた》も晃代《てるよ》も、最初から結婚して家庭を持つことに向いていなかったのよ…新《あらた》が三重子《みえこ》さんとリコンした…晃代《てるよ》もダンナと不仲になったのでリコンした…うちの子どもたちは、生まれた時から良縁《えん》がなかったのよ~」
「もういいわよ…やめようよ。」
「そうね。」

このあと、母子3人はひとことも言わずにみかんを食べた。

それから一ヶ月後であった。

新《あらた》は、亜弥子《あやこ》と晃代《てるよ》といさおと一緒に家をバイキャクしたあと犬山ヘ移った。

いさおは、犬山市内《しない》にあるトクロー(特別養護老人ホーム)に入所した。

新《あらた》と亜弥子《あやこ》と晃代《てるよ》の3人は、伯父《おじ》の家族たちが暮らしている家に一時滞在することになった。

その一方で、真央《まお》は実家に一時帰省することになった。

半兵衛《はんべえ》の家族たちが暮らしていた家がバイキャクされた。

信孝《のぶたか》は、お仕事の都合で関西に移り住むことになった。

そして、新《あらた》とリコンした三重子《みえこ》は今も行方不明のままであった。

これにより、物語の最初の一幕が終わった。

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