【辛口ヒューマンドラマ】私のしあわせな結婚−32
第4話
時は、10月3日の午後2時過ぎであった。

またところ変わって、前浜通りにある大型病院にて…

この病院に半兵衛《はんべえ》の妻・絹代《きぬよ》が入院していた。

絹代《きぬよ》は、脳こうそくとそれにともなう臓器の病気で長期入院生活を送っていた。

真央《まお》は、空いている時間を利用して絹代《きぬよ》のカンビョウをしていた。

場所は、絹代《きぬよ》が入院している病室にて…

濃いピンクのトップスと白のスカートの上から黒のエプロンをつけている姿の真央《まお》は、新しいお花がいけられている花瓶をベッドの横におかれているテーブルの上にゆっくりと置いた。

真央《まお》は、ベッドにいる絹代《きぬよ》に対してやさしく声をかけた。

「おばさま、新しいお花に替えましたよ。」

絹代《きぬよ》は、弱々しい声で真央《まお》を呼んだ。

「真央《まお》さん…」
「おばさま。」
「真央《まお》さん…うち…どうしたらいいの?」
「おばさま…」
「うちが『こころぼそい…』と言うたことが原因で…信孝《のぶたか》と信包《のぶかね》に…お嫁さんが来なくなった…」

真央《まお》は、困った声で絹代《きぬよ》に言うた。

「おばさま、まだそんなことを気になされているのですか?…おばさまはなにも悪くはないわよ〜」
「だけど…」

真央《まお》は、やさしい声で絹代《きぬよ》に言うた。

「信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんは、身の丈に合う相手《おあいて》がいないだけよ。」

絹代《きぬよ》は、泣きそうな声で真央《まお》に言うた。

「だけど…よくないわよ…信包《のぶかね》の同級生の男の子たちはみな結婚して家庭を持っているのよ…高校の時に仲良しだったFくんは、お子さんが3人いるのよ…来月はじめに4人目の赤ちゃんが生まれてくるのよ…中学の時に仲良しだったHくんは先月5人目の赤ちゃんが生まれたのよ…」
「おばさま!!」
「うちは孫がほしいのよ…孫がほしいのよ…」
「おばさま、やめてください!!」
「信孝《のぶたか》は、いつになったら素敵な花嫁さんに出会うことができるのよ?」
「だから、信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんの身の丈に合う花嫁さんは、熱田(神宮)の神さまが選んでくれるから安心してください!!」

真央《まお》が言うた言葉に対して、絹代《きぬよ》は弱々しい声で言うた。

「それだけじゃダメよ…」

真央《まお》は、いらついた声で絹代《きぬよ》に言うた。

「おばさま!!もうやめてください!!熱田(神宮)の神さまは、信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんがまじめにがんばって生きている姿をきちんとみているのよ!!」
「ほんとうに見ているの?」
「ほんとうです!!」
「でも…」
「おばさま!!」
「やっぱりそれだけではダメよ…」
「おばさま!!おばさまは以前信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんはオトコマエだから、身の丈に合う相手《おあいて》はたくさんいる…信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんのことをほっとけないと言っている女性《ひと》はたくさんいる…だから、じっと待っていればいい…と言いましたね!!」
「言うたけど…」
「それだったら、なんで信じないのですか!?…おばさま自身が信じていれば、信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんの身の丈に合った相手《おあいて》に出会う日は必ずきますよ!!」
「ほんとうにそれだけでいいの?」
「おばさま!!もうやめてください!!おばさまは、ご自身の身体《おからだ》を治すことだけを考えてください!!信孝《のぶたか》さんと信包《のぶかね》さんは、少ないお給料の中から毎月少しずつコツコツとチョキンしているのよ…目上の人の言うことを聞きながらまじめにがんばっているのよ…おばさまはお医者さんに言われた通りにしてください!!」

真央《まお》は、いらついた声で絹代《きぬよ》に言うたあと大きくため息をついた。

それから10分後であった。

絹代《きぬよ》のカンビョウを終えた真央《まお》は、同じ部屋で入院生活を送って要る弓子《ゆみこ》のカンビョウをした。

弓子《ゆみこ》は、7月1日にノウザショウを起こして倒れたあと愛知県《けん》の救急救命センターへ緊急搬送〜緊急のオペを受けた〜…のあとセンター内にある集中治療室で過ごしたあと9月末にこの病院に転院した。

あの事件のあと、弓子はふたりの子どもたちと別れた…

夫は、サギオウリョウザイのほかに複数の凶悪犯罪を犯した容疑でケーサツに再逮捕された。

夫の兄は、知永子《ちえこ》との結婚がハタンしたあと挙母町《ころも》(豊田市)にある取引先の工場に強制的に出向を命ぜられた。

夫の兄は、出向先の工場でマヨネーズの箱詰めだけのお仕事に取り組んでいた。

夫の両親は、リースバックを利用して家をバイキャクしたあと兵庫県で暮らしている長女夫婦《むすめふうふ》のもとへ移り住んだ。

弓子のふたりの子どもたちは、近いうちに子どものいない夫婦の家にヨウシになることが決定した。

これにより、弓子は一人ぼっちになった。

さびしい表情を浮かべている弓子を見た真央《まお》は、複雑な表情を浮かべながらつぶやいた。

弓子さんはこれからどうするおつもりですか?

真中《まなか》の家とリエンした…

子どもたちふたりと会えなくなった…

死ぬまで、一人ぼっちで生きて行くつもりですか?

……………

時は、午後3時半頃であった。

またところ変わって、めいてつ有松駅のすぐ近くにあるイオンタウンにて…

イオンタウン内にある大垣共立銀行の支店のオフィスに新《あらた》がいた。

新《あらた》は、ひとことも言わずにデスクワークに取り組んでいた。

この時であった。

新《あらた》の直属の上司の男性がもうしわけない表情で新《あらた》のもとにやって来た。

上司の男性は、もうしわけない表情で新《あらた》に声をかけた。

「京田くん。」
「課長。」
「少しの間かまん?」
「あっ、はい。」

上司の男性は、カドにやさしい声で新《あらた》に言うた。

「京田くん…あれ何月何日だったかおぼえてないけど…」
「7月1日のことですか?」
「そうだよ…その日はたしか長女《むすめ》さんの挙式披露宴があった日だったね。」
「そうですが…」
「長女《むすめ》さんのはれの門出の日だと言うのに、無理なたのみを入れてごめんね…深瀬漆器の社長さまが前日にケータイを忘れたまま輪島へ帰った…社長さまが困っているから届けてくれと頼まれてもイヤな顔をせずに金沢まで行ってくださった…」

シラケた表情を浮かべている新《あらた》は『もういいですよ…』と言うた。

上司の男性は、困った声で言うた。

「京田くん…あの時、無理なたのみを入れてごめんね。」

シラケた表情を浮かべている新《あらた》は、力ない声で言うた。

「知永子《ちえこ》は、結婚をあきらめましたよ。」
「結婚をあきらめたって?」
「ええ。」
「もしかしたら、ワシが無理なたのみを入れたから…」
「ちがいますよ…相手方の親類に前科持ちがいるなど…で危険をさけるために取りやめましたよ。」
「そうだったのか…やむを得ない措置で結婚をやめたのであればしゃあないな…でも、深瀬の社長さまは京田くんにお礼をしたいと言うていたよ。」

新《あらた》は、シラケた表情で『お礼ってなんですか?』と言うた。

上司の男性は『それはその…』と言いにくい声で言うたあと新《あらた》に言うた。

「ちょっとその前に、お知らせがあるのだよ。」
「お知らせってなんですか?」
「京田くんは、5〜6年前にうちに出向で来たよね。」
「そうですが…」
「期限は、来年の3月31日までだったね〜」
「そうですが…あれたしか、育休を取った男性の従業員さんに代わってぼくが出向できました…それで、お知らせとはなんですか?」

上司の男性は、ものすごくつらい声で新《あらた》に言うた。

「お知らせと言うのは…もうしわけないないけど…あと1年…こっちにいてくれるかな…立浪課長《たつなみかちょう》にはワシが電話で伝えるから…」

新《あらた》は、めんどくさい声で言うた。

「育休を取った男性従業員さんは、どうするおつもりですか?…役に立たないからクビにするつもりですか!?」
「ちがうのだよ〜」
「違いませんよ。」
「育休を取った男性従業員さんは、おじいちゃんのカイゴをするために穴水町《あなみず》(石川県)の実家へ帰るのだよ。」
「おじいのカイゴをするって…どういうことでしょうか?」
「だから、他の家族たちはおじいちゃんが大キライだからカイゴしないと言うてるのだよ〜」
「それはなんですか?」
「だから、男性従業員さんのおじいちゃんが老健施設《しせつ》でもめ事を起したからタイキョになったのだよ…その後、認知症が悪化した…先々週の水曜日におじいちゃんがトケツしたのだよ。」
「トケツ?」
「男性従業員さんのおじいちゃんは、糖尿病など…複数の病を抱えているなど…少しずつ体力が弱っているのだよ…男性従業員さんは、孫たちの中でたったひとりだけおじいちゃんが大好なんだよ…おじいちゃんを放っておけないので、穴水町《あなみず》に帰ると決めたのだよ…奥さまは仕事の関係で名古屋《じもと》を離れることができない…子どもたちは、お友だちと別れるのがイヤだから…と言う理由で穴水町《あなみず》に行かないことになった…」
「奥さまとお子さまは、どうなされるおつもりですか?」
「そうだな…」

上司の男性は、ものすごく言いにくい声で言うた。

「男性従業員さんと奥さまは、近いうちにリコンするかもしれないと言うたけど…」
「なんでリコンするのですか?」
「さあ、よくわからないけど…精神的な理由で結婚生活を続けていくことができなくなったのじゃないのか?」
「それはどういうことでしょうか?」
「よくわからないよ…それよりも京田くん…あと1年だけここにいてくれるかな?」
「さっき返事しましたよ。」
「受けてくれるのだね…ありがとう…1年以内に代わりの従業員さんを呼ぶから…すまないね。」

上司の男性は、ものすごく言いにくい声で新《あらた》に言うたあと席から離れた。

新《あらた》は、めんどくさい表情でつぶやいた。

ここにあと何年いようが関係ない…

それよりも、穴水町《あなみず》へ帰ると言うた従業員《ポンコツ》はなにを考えているのか?

見えすいたウソを言うのじゃないよ…

(ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ…)
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