君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。
「…ただいま」

遅くなっちゃった、今日も。

柊真が来たのが遅かったのもあるけど、まだもう少しって完成しない絵を見ていたら今日も…しかも完成しなかったしどんだけ書く気なの本当。

ゆーっくり引き戸の玄関を開けて、のそっと廊下をなるべく物音を立てないように…だけど古い家は本当困る、どれだけ気を付けてもきしむ音がするんだから。

「千和…、あんた何してるの」

いつもは少ししか開けない障子戸を今日は全開で開けた。

眉を吊り上げキッと目に力を入れたおばあちゃんが睨みつけて来る。なんだか今日は一段と機嫌が悪そう。

「最近遅い日があっておかしいと思ってたのよ、本当八重の子ね卑しいったらありゃしなわ」

おばあちゃんがイライラする気持ちもわかる、おばあちゃんは私とお母さんに帰って来てほしくなかったから。

お母さんはこうやっておばあちゃんに言われるのが嫌で部屋から出て来ない、私からしたらお母さんのが子供みたいに思えるけど。

でもね、お母さんが外を歩けないのは自業自得だから。

「あんた毎日男といるんだってね」

血相を変えたおばあちゃんが目の色を濃くした。

「…男って、普通に友達だから。遊ぶでしょ、中学生なんだから」

「誰が見てるのかわからないのよ!!」

急にスイッチが入ったみたいに声が大きくなる。

「外での行動は慎みなさい!変な噂が立ったらどうするの!?これ以上…何か言われたらっ」

ぶつけてくるようなおばあちゃんの声が頭に響く、目を充血させて迫って来る。

「あんたたちここで何て呼ばれてるか知ってるの!?」

腕を伸ばして私の制服の袖を掴む。

ぐいぐいと揺すって痛い。

「不倫して旦那に捨てられた親子…!」

「……。」

「恥ずかしいったらないわよ!!」  

私は何もしていない。

なのに1度だけ話したから、それでお父さんが私までそっちに行ったんだって思ったらしい。

お金持ちだったからその人、私もついていくって思ったんだって。

お父さんを捨てて…


だから私は捨てられた。


「千和っ」

おばあちゃんの力が強くなる。

切羽詰まった様子でギリギリと迫って来て…

「でも本当のことでしょ!!」

ブンッと振り払った。

そのまま廊下を走って階段を上る。

お母さんがお父さんじゃない男の人と会ってたのは本当、お父さんがいない日はいつもよりおしゃれをして嬉しそうに家を出て行く…


私を置いて。


いつもいつも私は1人、帰りを待つだけだった。
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