君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。
「ねぇ君は死にたいの?」

男の子の隣を通り過ぎてようとした。

でも寂しそうな声で聞いて来たから。

「そうだけど」

なんで見ず知らずの人にそんな声で言われなきゃいけないのかわかんないけど。

「悪い?私の人生なんだから私が決めていいでしょ」

この時初めてちゃんと彼を見た。

上から下まで、ハッキリと目に映った。

この海が近い町で一切日焼けをしていない真っ白な肌に女の子かと思うほど華奢な体は、私よりも消えてしまいそうだった。

「ううん、いいと思うよ。でももったいないと思って」

「もったいない?」

「うん、だって君はもうこの先の命がいらないってことなんでしょ?」

「…そうだけど」

目を伏せてかすかに微笑んだ。

ひゅーっと海風が強くなったこの防波堤で。
 

「じゃあその命、僕にちょうだい」


海の近くは風が強いって言うけれど、潮の香りと混ざってなんだかベタベタして気持ち悪い。

さみしそうな瞳はどんな意味を持っているんだろう。

わからないけど、じぃっと私を見て目を細めて微笑んだ。

まるで君がここで飛び込もうとしているみたい。

「何…言ってるの?そんなこと出来るわけないじゃん」

「そう思うでしょ?でも出来るんだよね~、オレ方法知ってんの!」

急に一人称が変わったんだけど、ちょっと本性現したみたいな。

だけど開き直ってるようにも見えて。


でもどうしてそんなことを、だって命がほしいなんて理由は…


「君は死にたい、オレは生きたい」


真っ直ぐ私の胸に突き刺さる、私には言えない言葉だったから。


「だからオレと寿命を交換しよう」


向き合った彼と、大きく目を見開いて一瞬息をするのも忘れちゃった。

「交換…?」

「うん、交換!こうトレードする感じだね、こうスッと!」

両手をグーにして前に出して、すっとクロスさせ…たぶん寿命に見立てた。

「いやいや、だからそんなの…っ」

ニッと彼が笑う。


そんなの本当に出来るの?

寿命の交換なんて、そんなの…


「どうやってするの?」

興味が沸いてしまった。
そんな自信満々に言われたら本当に出来ちゃうのかなって。

「教えてあげよっか」

「……っ」

急に色のない瞳でクイッと右の口角を上げた。なぜだか囚われた気分になった。

「…本当にそんなこと出来るの?」

「あ、信じてない?まぁ信じないかこんなこと」

信じられるわけない、寿命を交換するなんてそんなこと…

「でも出来るんだよ、ちょっとついて来て」

「…。」
< 4 / 65 >

この作品をシェア

pagetop