君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。

give.2)

「山下さんっ」

授業が終わって帰ろうと廊下を歩いてる時、前から歩いて来た大橋先生に呼び止められた。
にこにこしてうれしそうな顔をして、相変わらず胸ポケットには手作りの花のブローチを着けている。あれって毎日違うの選んでるのかな、見るたび違う色だよね。

「最近顔色いいね」

「えっ」

…あれから毎日ご飯はおばあちゃんと一緒に食べるようになった。朝も夜も、おばあちゃんがご飯を作ってくれて温かくておいしいご飯を食べている。

それでかな、大橋先生それを言いたくて…

「夏はご飯が美味しいよね~!」

「え?」

「食欲止まらないよね!何でも美味しくて!」

「それって秋じゃないですか?」

「そうだっけ?夏もおいしいよ、秋も春も冬も美味しいけどね!」

にこっと笑って、さっきよりもうれしそうな顔をした。いつでもそんな顔してるけど。

「お母さんは…どう?」

「あ…、だいぶよくなりました」

「そっか、よかったね」

「はい」

また笑った、今度は柔らかい笑顔で。

その笑顔は、人の好さを表してるっていうか大橋先生らしいっていうか…この田舎町で何より穏やかさを感じる。

「あ、そうだこれ…よかったら」

小脇に抱えたノートに挟んであった1枚のプリントを渡された。大きな文字で手芸部新入生募集中とでかでかと書かれ、ちょっとしたイラストも描いてあった。

「こないだ話したでしょ、うちの部活本当人少ないからねぇもうすぐ夏休みも始まっちゃうけど新入生受け付けしてるから」

毎回違うブローチを見ればわかる、人は少なくてもちゃんと活動してるんだなって。でも…

「お母さんのお見舞いに行かなきゃなんで、すみません」

毎日学校が終わったら病院へ行く、最近の私の日課だった。

「うん、だから山下さんが来たいと思ったらでいいよ。無理に来る必要はないし、少しでも興味があって来られる日があれば…その時は歓迎するから」

ねって笑って、返そうとしてプリントを戻された。

「わかり…ました」

受け取るだけ受け取った、一応。

「かぎ針編みで鶴作ってるんだ、ちょっと難しいけど楽しいんだよ」

行くかどうかわからないけど、今の私には他にすることがあるし。

毎日病院へ通うことが今は1番したいこと、お母さんといられるのもあと少しだから。
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