君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。
そう言って歩き出したから、半信半疑で私も歩き出した。

寿命を交換なんて何言ってるの?

そんなこと不可能でしょ!

そんな方法あるとは思えないんだけど、それに…

「こっちだよ」

「う、うん…!」

病院とは反対側の海沿いを歩いてちょっとだけ山の方へ、少し奥に入って行けば小さな鳥居があった。

こんなところいに神社はあったんだ、誰の目にもつかないようなところにこんな山の裏側みたいなとこに。

かなりちっちゃくてかわいらしい神社だなぁ。私よりっちゃいかも。

「こっちこっち!えっと~…名前は?」

「…山下千和(やましたちより)

「オレは柊真(しゅうま)!千和こっちこっち、ここに来て!」

「……。」

そーいえばまだ名前聞いてないなって思ったけど、いきなり呼び捨てとも思わなかった。いいけどさ。

「この石、見て」

「石…?」

呼ばれた方に行くと頭ぐらいの大きさの石が神社の隣に置いてあった。草木に埋もれてちょっとわかりずらかったけど。

「これが反対側にもあるんだ」

「あ、ほんとだ」

「この石に手を置いて、右手ね右手!オレはあっちの石に手を置くから!」

反対側って言ってもちっちゃな神社、たぶん徒歩5歩くらいほとんど隣に位置してる。

「いい?オレがここに置けば千和とオレの寿命が入れ替わる!」

こっちを見たからパチッと目が合った。

しゃがみ込んだまま石の上に手を置く私と同じようにしゃがみ込んで手を。


え…

これだけで入れ替わっちゃうの?

こんな簡単に?


海に飛び込むよりも簡単に…!?


「交換、してくれる?」

「…っ」


悲し気な瞳が私を捕える。

その瞳はなぜだか何も言えなくなるの。

全部を無に帰すような色をしているから。


サーッと緊張感がこみ上げて来る。


これで私の寿命と柊真の寿命が入れ替わる…


そしたら私の寿命をあげることになるの?


これで本当に…



え、でも待って!

 

「ねぇっ」

「あ、まだ時間が早いわ」

「…時間が早い?」

石ギリギリのとろでピタッと柊真が手を止めた。だから聞きたかったことがさえぎられてしまった。

「これね、ちょっとだけルールがあるの!」

「ルール?」

「そ、置いただけで変わっちゃったらみんな寿命交換し放題だからちょっとだけねルールが決まってんだ」

それは…
確かにそうだけど。

石の上に同時に右手を置いだけなんてさすがにちょっと、とは思う。

間違えて交換てこともありそうだし。

柊真が立ち上がって空を見上げた。

「寿命が交換出来るのは日が落ちる瞬間の5秒間、同時に石の上に手を乗せていた2人だけ」

両手を腰に当てて遠くを見るみたいに。

「そうやって決まってるんだ」


日が落ちる5秒間…


この時間はまだ太陽が昇ってる。

たぶん日が落ちるまではまだ1時間以上…あるよね。

「うわ~しまった、つい気持ちが流行っちゃって来ちゃったけど意味なかった~!」

「……。」

意味なかったんかぃ。

さっきまでの緊張感が一瞬でほどけた。

「仕方ない、出直すか」

「え!?帰るの!?」

「うん、オレ今日は帰んなきゃだからまたでいい?」

「え…うん」

そんな軽く言われるもんなの?

私だってまだ寿命を交換する気にはなってないからほっとしたところはあるけど。

まだっていうか交換するとは言ってないし、よくわかってないし、まだ何も…

「じゃ行こっか」

石に背を向けて歩き出そうとする。

「待って!」


大事なこと聞いてない。

寿命って交換出来るんだってことに驚いてここまで来ちゃったけど、寿命を交換したら本当に私は死ぬの?
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