君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。
金見先輩が道具を貸してくれた。椅子に座って教えてもらって、初めて手芸っぽいことをした。

「こうやって糸を持って、針先に糸をかけて引き出して…そうそうそんな感じ!そしたらまた同じようにここの糸を…」

あ、意外と簡単かも!
また繰り返してやっていけばいいんだ私にも出来そう…

「これがくさり編みね!」

くさり編み、へぇ編み方にも名前があるんだ。
でもこれずっと1本のくさりみたいで何の形にもならないけどいいのかなぁ?このまま編み続けたらただただ長くなっちゃう…

「これが最終的には鶴になるから!」

「……。」

どうやって?

私の想像では全然鶴にならなかった。
でも鶴にもなるんだ、花のブローチもすごいけど鶴かぁ…


“かぎ針編みで鶴作ってるんだ、ちょっと難しいけど楽しいんだよ”

どうして鶴なのかな?

聞いてみても、いいかなぁ… 


少ししたら帰るもりだったのに、ついつい夢中になっちゃってひたすらに手を動かしちゃった。金見先輩の教え方はわかりやすくて、須田さんが見せてくれる編み方をマネしながら、鶴を目指して…

「……。」

鶴に見えなくもない何か、ぐらいにはなった。

「どう?山下さん、初めての手芸は」

「…楽しかったです」

編み終わったかぎ針を返してゴミを捨てようと隅っこのゴミ箱まで来たところで同じように鶴を編んでいた大橋先生がゴミを捨てに来た。金見先輩たちはまだかぎ針で編んでる。

「そっか、楽しかったかぁ~。じゃあよかったなぁ」

楽しかったって言っただけなのに、にこにこしちゃって本当いつでもその顔だよね。

それが大橋先生って感じ、でもあの時は…


そんな顔してなかった。


「大橋先生…」

「ん?あ、手芸部興味持っちゃった?うちはいつでも大歓迎だからっ」

「この鶴は誰のために編んでるんですか?」

「……。」

ほらまた、そんな顔ー…

急に顔を曇らせるから。
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