君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。

give5.)

「こんにちは…!」

「千和っ」

「千和ちゃんいらっしゃい」

あれから待ち合わせの場所は変わっちゃったけど、会える日は柊真のところへ通った。

出来るだけ毎日、会いに行った。

「えっと~…今からどこか行くんですか?」

病室のドアを開けると柊真が車椅子に乗ってたから。

もう自分で歩くことも難しいらしい。普通に喋ってはいたけど。

「これからちょっと外の方に散歩に行こうかなって思ってて、今日は涼しそうだから」

気付けば夏休みに入っていた7月、暑い日はたくさんあったけど今日は風があっていつもより過ごしやすかった。

「あ、じゃあ千和ちゃんにお願いしてもいい?ちょっと先生に話聞きに行きたいから」

柊真のお母さんから柊真を預かった。がんばります!って答えたら、柊真が何を?って笑ってた。


笑ってくれた。


「…千和、そんな一生懸命押さなくてもいいよ」

「大丈夫!任せて!」

病室から出てエレベーターで1階まで、裏庭に繋がる通路を抜けて海の方へ。

点滴をかけたスタンドも一緒だったから気を付けながら。

病院の中庭扱いになってるところまでなら出てもいいらしくて、せっかくだから海を見に行きたかった。

「今日はちょっと波が激しいな~」

「風があるからかなぁ、そのおかげで気持ちいいけど」

車椅子の柊真の隣にちょこんっと座った。たまにぶわーっと吹く風で髪が乱れる。

「やっぱ海っていいな、なんか」

いつもの防波堤と違ってこっちにはちゃんと柵があった。危ないもんね、病院の前だし。

「近くで海見たの久しぶりだなー」

ささいな柊真の言葉が胸に刺さる。

もうずっと病院から出てない、病院以外で会うことがない。

柊真はいつまでここに…

「そーいえば千和の母さん退院したんだっけ?」

「あ、うん!昨日…したよ」

「そっか、よかったなおめでとう!」

「うん…、ありがとう」

でも柊真は変わらなくて。

頭を起こして隣の私を見てにこっと笑った。

今日はいつもより元気そうだ。
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