君の見えない明日を、君の命に変えることができたなら。
何を言っても断り切れなくて、結局渡された筆を手に取ってしまった。

「あ、まずは下絵からだよね!鉛筆のがいいよね、はいっ!」

「…ありがとう」

断り切れず…
しょうがない、描くか。

これで友達って認められるならまぁ描いてもいいか、これも全部寿命を交換するためだもんね。それ以下でもそれ以上でもない。

画用紙をコンクリートの上に、防波堤だから仕方ないんだけどゴツゴツしてちょっと描きにくい。

「千和何描く?」

「あの展望台」

「お、いいね」

「そう?いいならよかった」

展望台を見て画用紙の方を見て、何度も繰り返しながら鉛筆を動かして。

たまに人が近付いて来て覗きに来る、遠くから見たら何してるんだろうって気になるんだろうなぁ。

「千和って西中なんだよね」

「うん」

「何年生?」

「2年」

「あ、じゃあ同じだオレも2年!」

ふーん、そうなんだ。

この辺って他に中学校どこがあるのかな?西中以外に、よく知らないからわかんないけど柊真は西中じゃないのかな?

なんかそんな口ぶり…

「ねぇねぇねぇ西中ってさめっちゃくちゃ背の高い先生いない!?」

「先生?え、わかんない」

「2メートルぐらいあんの!でも趣味手芸らしいよ」

「へぇ、…どの先生だろ?」

そんな背の高い先生いたかな、いたようないなかったような…

「もったいないよな~、バスケとかしたらいいのに」

思い返してみても全然ピンと来ない。

「あと西中ってさ、毎年自分たちで外のトイレの壁塗ってんでしょ?あれに選ばれた人はやっぱ超絵上手いのかな~」

「うん、そう…なんじゃない?」

もくもくと手を動かした。

早く描いたら早く終われるって思いながら、もう思い返してみるのをやめて…

てゆーきっと思い出せない、思い出せるほどの思い出もないから。

「あとさっ!」

「あのっ」

「…どうした?千和」

「手、動かしたら?柊真がやりたいって言ったんだから早く描きなよ」

こんな可愛げのないところがいけないのはわかってる。

でもこれ以上は聞けなくて、すぐに下を向いてまた鉛筆を動かした。

「…ごめん、何か千和と話したいなって思ったんだけど…そうだね、描こうって言ったのはオレだよね」

顔を見なくてもこれくらいならわかる、まだ会って間もない柊真だけど…

「違うのっ」

今のはよくなかった。

「私…っ、転校して来たばっかなの!だからっ、あんまり知らなくて…っ」

知らないのが恥ずかしいみたいに感じちゃった、だからあんな言い方して…

「…ごめんなさい」

ぎゅって鉛筆を強く握った。

何も返って来ないから、どう思ったかなってちょっと怖かった。

やっぱり言い方よくなかったよね、怒ってるよね…

恐る恐る顔を上げる。


私と目が合ったのを確認して、にこっと笑った。


「オレも知らないから一緒じゃん!」

「……。」

「じゃあ違う話しよう!千和の好きな食べ物は何?オレはハンバーグ!」

「…しそ昆布」

「え、渋っ」

にこってまた笑った。


ドキンッと胸を打つ、吸った息が止まってしまいそう。

胸が熱くなる。 


こんなの初めてで…


「あ、やば!オレもう帰らなきゃ!」

「え?」

「ごめんね、千和!続きはまた明日でいい!?」

「え、うん…」

まだ絵の具にもたどり着けず、ただ下絵を描くだけになった写生大会の予行演習はここで終わりになった。

また明日でいい?って明日も会うつもりなんだ、私と…
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