ハイドランジア
『問5から問12まで次の授業までにやっとけって』
隣から声がかかる。
声を掛けられるとは思わなくて驚いてたら、朔くんのスラッとした長い指先が伸びてきて、開きっぱなしだった私の教科書の上に ここ、と指先を置いた。
『あ、ありがとぅっ』
思わぬ近さに緊張して声が上ずる。
『ん』と口の端で小さく笑った朔くんは、そのままがたりと立ちあがり、また教室から遠ざけるようにして居なくなってしまった。
………ちょっと待って。
あのあとすぐまた教室戻ったってこと?
体調悪いって嘘ついて、やっぱりサボりたかっただけ?
だとしてもサボった人が途中で戻ってくるなんて聞いたことない。
『…………もしかして』
違和感が形になったとき。
心臓のずっと奥。甘く響いた。
朔くんを意識し始めるには、
じゅうぶんなことだった。