ハイドランジア
名前を呼ばれたことは一度もない。
多分、私の名前知られてない。
目が合ったことはほんの数回。
片手でちょうど数えられるくらい。
女子と話してるところは見たことない。
女が苦手なんだって、友達の牧野くんが言ってた。
「────瀬戸口 朔って怖いよねぇ」
「超わかる、あの目で睨まれたら恐怖でシヌ」
ぱたぱた。逃げるようにして小走りで昇降口を出る女の子たちが、私の横を通り過ぎる。
もう何回聞いたかな。
そんなことないのに。
怖いことなんてないのに。
聞き慣れた言葉を耳にするたびに、
いつも私が泣きそうになる。
───ザァァ……
やむことなく、降りしきる大雨。
この調子じゃ空が晴れることは当分、ない。
「……おそろいだね」
思わず、こぼれた。
笑ってしまう。
もう終わらせてしまいたい。