ハイドランジア
──ぱしゃ。
水たまりを踏んだら、靴下にじわりと染みてすぐに後悔した。
そのせいでローファーの上部に水たまりが生まれてしまい、はらおうと足先を揺らすとバランスを崩して
隣を歩く朔くんのほうによろけてしまった。
それから最悪なことによろけた振動が傘に伝って、溜まった雨水がぼたぼたぼた、と朔くん側に落ちてしまう始末。
「はっ……。ご、ごめんなさい」
「なにやってんの?」
シンプルに怒られる。
猛反省。
「やっぱ俺 傘持つ。貸して」
「だっだめ!私が、送り届けます、最後まで」
「…………女子に送ってもらおうとしてる俺って男としてどうなん」
すこし窮屈そうに首をまるめる朔くんが、可笑しそうに目を細めた。
あわてて右肘を最大限にのばして上のほうに余裕をつくると、朔くんがまた小さく笑うから私はもうときめくとかそういう次元じゃない位置にいると思った。
『──んなら甘えるわ。ありがと』
断られたのに 送りたい、なんて一種のわがまま。
まさか本当に受け入れてくれるとは思わなくて、今ちょっと夢見心地な気分。現実だと思えてない。
……朔くんと相合傘、なんて。
心の中で言葉にしたら息が止まりそうになった。