花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
仮面の残光
夏が来たことを告げるように、じりじりと肌を刺すような日差しが照りつける。真夏の学校までの道のりは日に日に過酷さを増している気がする。
「想乃、歩くの早いよ!もう暑いよぉ、やってけない…」
唯は何度目か分からないその言葉を私の隣で呟いていた。彼女の顔を顔をちらっと横目で盗み見る。
仮面は汗を流しながらしょんぼりしているのかと思いきや、少し微笑んだ表現を浮かべていた。
日南想乃。私は物心ついた頃から人の顔に仮面がついて見えるようになった。
仮面といってもそれは半透明で、相手の頭の上にふわりと浮かぶものだ。お祭りのお面かのようについていて表情を映し出す。
それが何を表すのか、最初はまったく分からなかった。
「あんたのせいでこうなってるんでしょ?!」
「元はと言えばお前のせいで……」
幼い頃から両親の喧嘩はしょっちゅうあって、お父さんの仮面は真っ赤に染まり怒りで歪んでいた。現実の顔も、同じように怒っていて怒鳴り声をあげている。
けれど一方でお母さんの仮面はぼろぼろと涙を流しながら泣いていた。あんなに高い声を立てて怒っているというのに、仮面は泣いていて別の感情を見せていたのだ。
その時、幼いながらにも私は理解してしまった。
仮面はその人の本心を示すのだと。
「ねえ想乃、聞いてる?!もう!!」
唯の声が私を現実に引き戻す。
彼女はむすっとした顔をこちらに向けていて、仮面も同様にぷんぷんと拗ねているようだ。
「あはは、ごめんごめん。ぼーっとしてた」と私は笑って誤魔化す。
未だになぜ仮面が見え始めたのか分からない私はたまにこうやって昔の光景を思い出してしまう。
「そういえば唯なんかいい事でもあったの?」
さっき見た唯の仮面が微笑んでいたことを思い出して、何気なく聞いてみる。
「気付いちゃった?」とにやにや笑う唯は待ってましたと言わんばかりに答えた。
「実はね…彗くんとこの前話せたのー!!!」
彼女は頬を両手で押さえてまるで小さい子供のようにキャッキャと笑う。おやつを貰えた子供みたいだ。
彗くん。その言葉を聞くと少しげんなりしてしまう。それはうちのクラスの生徒の星崎彗のことだろう。いつも無表情でクールな反面、たまに抜けているところがありかわいいだのギャップ萌えだのともてはやされている。
実際、彼は顔立ちが整っているし運動神経も抜群。
学年順位も常に上位にいる。モテる気持ちも確かに分かる。
けれど、サラサラとした黒髪からちらりと見える瞳は何を映している分からなくて、全てを見透かしているようで私はたまにひどく怖く感じる。
私は星崎彗が苦手なのだ。彼の仮面を見れば分かる。
彼の仮面は____ずっと同じなのだ。
常に無表情のままで彼の仮面にはまるで変化がない。
裏表がないんだから良いことだろうと思う人もいるかもしれないけれど違う。
そんな人は今まで一度も見たことがないし、誰だって取り繕う事があるはずなのに。
彼が何を考えているのか全く読むことができない。私にとって得体の知れない人なのだ。
「…それでね…手が触れちゃってー! 」
まだ興奮している唯に「よかったね」と返すが、私の頭の中は別のことでいっぱいで会話はあまり頭に入ってこなかった。
「想乃、歩くの早いよ!もう暑いよぉ、やってけない…」
唯は何度目か分からないその言葉を私の隣で呟いていた。彼女の顔を顔をちらっと横目で盗み見る。
仮面は汗を流しながらしょんぼりしているのかと思いきや、少し微笑んだ表現を浮かべていた。
日南想乃。私は物心ついた頃から人の顔に仮面がついて見えるようになった。
仮面といってもそれは半透明で、相手の頭の上にふわりと浮かぶものだ。お祭りのお面かのようについていて表情を映し出す。
それが何を表すのか、最初はまったく分からなかった。
「あんたのせいでこうなってるんでしょ?!」
「元はと言えばお前のせいで……」
幼い頃から両親の喧嘩はしょっちゅうあって、お父さんの仮面は真っ赤に染まり怒りで歪んでいた。現実の顔も、同じように怒っていて怒鳴り声をあげている。
けれど一方でお母さんの仮面はぼろぼろと涙を流しながら泣いていた。あんなに高い声を立てて怒っているというのに、仮面は泣いていて別の感情を見せていたのだ。
その時、幼いながらにも私は理解してしまった。
仮面はその人の本心を示すのだと。
「ねえ想乃、聞いてる?!もう!!」
唯の声が私を現実に引き戻す。
彼女はむすっとした顔をこちらに向けていて、仮面も同様にぷんぷんと拗ねているようだ。
「あはは、ごめんごめん。ぼーっとしてた」と私は笑って誤魔化す。
未だになぜ仮面が見え始めたのか分からない私はたまにこうやって昔の光景を思い出してしまう。
「そういえば唯なんかいい事でもあったの?」
さっき見た唯の仮面が微笑んでいたことを思い出して、何気なく聞いてみる。
「気付いちゃった?」とにやにや笑う唯は待ってましたと言わんばかりに答えた。
「実はね…彗くんとこの前話せたのー!!!」
彼女は頬を両手で押さえてまるで小さい子供のようにキャッキャと笑う。おやつを貰えた子供みたいだ。
彗くん。その言葉を聞くと少しげんなりしてしまう。それはうちのクラスの生徒の星崎彗のことだろう。いつも無表情でクールな反面、たまに抜けているところがありかわいいだのギャップ萌えだのともてはやされている。
実際、彼は顔立ちが整っているし運動神経も抜群。
学年順位も常に上位にいる。モテる気持ちも確かに分かる。
けれど、サラサラとした黒髪からちらりと見える瞳は何を映している分からなくて、全てを見透かしているようで私はたまにひどく怖く感じる。
私は星崎彗が苦手なのだ。彼の仮面を見れば分かる。
彼の仮面は____ずっと同じなのだ。
常に無表情のままで彼の仮面にはまるで変化がない。
裏表がないんだから良いことだろうと思う人もいるかもしれないけれど違う。
そんな人は今まで一度も見たことがないし、誰だって取り繕う事があるはずなのに。
彼が何を考えているのか全く読むことができない。私にとって得体の知れない人なのだ。
「…それでね…手が触れちゃってー! 」
まだ興奮している唯に「よかったね」と返すが、私の頭の中は別のことでいっぱいで会話はあまり頭に入ってこなかった。
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