花火のように咲く、君の笑顔が見たいから
今まで怖かった彼が、少しだけ普通の人間に見えてくる。今までも普通の人間だけれど、私にとっては違ったのだ。
私にとっては仮面が全てだから、それが分からない彗はあまり人間らしさを感じさせなかった。

「はーい、大人しくしてくださいね」

小さい子をあやすような口調に、つい「ふふ…なにそれ」と笑ってしまう。
おでこに当てられた冷却パックのおかげか、痛みが徐々に和らいでいく。鼻血もいつの間にか止まっていた。

何だか少し分かった気がする。彼が周りに慕われている理由。一度も話したことがなかったけれど、思っていたよりも話しやすい。けれど…やっぱり。
上をちらりと見ても仮面は真っ白な無表情。こんな人は本当に初めてだ。

無表情の人はいても、必ず色はついている。仮面はその時の気分に合わせて色や表情で感情を表す。だからどんな人にも色はある。それがないのはやっぱりおかしいよなぁ…と頭を抱えたくなる。

「そんなチラチラこっち見てどうした?」

その言葉に少しどきっとするも、「なんでもないよ」といつもの笑みを貼り付ける。

そんな私に彼は怪訝そうに眉をひそめ、何か言いたげな表情をしている。何か気に触ることでもしてしまっただろうか?じくじくと心臓が痛む感覚に陥る。

いつもと同じ痛みだ。誰の機嫌も損なわないようにしているというのに彼の気持ちはよく分からない。

私が何か言おうと口を開くよりも先に、彼が口を開いた。

「それ、やめなよ」
「…?なんのこと」

急な主語も何もない言葉に戸惑ってしまう。そんな私に面倒くさそうに返してくる。

「その笑顔。胡散臭い」

言われた瞬間、頭をがつんと叩かれたような衝撃が走る。私の仮面、笑顔の仮面。
いつもこれで上手くやってきているのに。相手の仮面を見て笑みを作り、機嫌をとる。
そうしていれば何も問題が起きることはないはずなのに。
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